何が起きたか

2026年8月7日付のリンクブログ記事で、Simon Willison氏は同じプロンプトを2つの環境に投げた比較を公開しました。素材は4年前にGPT-3とDALL-Eで生成した「Raccoon Heist」というゲーム設定です。「アライグマの窃盗団を率いて、銀行強盗から名画の強奪まで、大小さまざまな仕事をこなす」という一文が起点になっています。

直前の水曜日の記事では、Claude Fable 5で一発生成(one-shot)を試しています。そちらの成果物は、1匹のアライグマが裏庭を走り回ってコインと魚を集めるだけのものでした。対してCodex DesktopでGPT-5.6 Sol Ultra——Solがサブエージェントを積極的に使うモード——に同じプロンプトを渡すと、舞台は美術館になり、プレイヤーは仲間のアライグマ2匹を救出して積み重なり、ケースに収められた金のイワシを奪取する、という構造を持つゲーム『Moonlight & Mayhem』が出来上がりました。テクスチャはgpt-image-2で生成され、プロンプトごとGitHubリポジトリに公開されています。

「見落とし」のほうが本質的

注目すべきは成功譚よりも失敗の中身です。一発生成版には、アライグマ各体の眼球が巨大な球体に膨らんで頭上に浮かぶというバグがありました。Codexは開発中にスクリーンショットを確認していたにもかかわらず、この異常を検知も修正もできていません。著者が「なぜアライグマに大きな黒い球体がついているのか」と質問し、続けて「直して」と指示したことで、ようやく修正コミットに至りました。バグ入りの版は今もプレイ可能な状態で残されています。

つまり、視覚的な出力を「見せれば」エージェントが品質判断まで肩代わりしてくれるわけではない、ということです。人間が異常に気づいて言語化した瞬間、修正自体は一往復で終わっています。ボトルネックは修正能力ではなく、異常検知の側にありました。

時間とコストが可視化されはじめた

著者はCodexの全トランスクリプトをリポジトリで共有しています。Codexの「copy as Markdown」機能を使ったもので、「Claude Codeにも同じ機能があればいいのに」と書いています。作業時間は52分。さらにAgentsViewによるコスト試算——フルのAPI料金で計算した場合と、実際に支払っている月額Codexサブスクリプションとの比較——も添えられています。

作業ログ・所要時間・コスト試算がひとつの成果物として並ぶ形は、エージェント開発の「見積もり単位」が固まりつつあることを示しています。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

実務上の示唆は3つあります。第一に、モデルとモードの選定が成果物の完成度を直接左右するという事実です。同一プロンプトで、Claude Fable 5版は「裏庭でコイン集め」、GPT-5.6 Sol Ultra版は「美術館・仲間救出・金のイワシ奪取」と、構造の複雑さそのものが変わりました。受託開発企業やSaaSのプロダクト部門が「AIで作ってみたが期待外れ」と結論づける前に、サブエージェントを積極活用するモードを含む複数構成での比較検証を、正式な工程として設計すべきです。

第二に、品質保証の設計です。Codexはスクリーンショットを確認しながら、頭上に浮かぶ巨大な眼球を見逃しました。ECサイトの商品表示やSaaSのダッシュボードなど、視覚的破綻が信用に直結する領域で「エージェントが自己レビューしたから大丈夫」は成立しません。人間による異常検知のチェックポイントを、工程表に明示的に残す必要があります。

第三に、52分とコスト試算が並記された点です。日本企業の稟議は工数見積もりで動きます。トランスクリプト・所要時間・API換算コストとサブスクリプション費の比較をセットで残す運用を今から標準化すれば、AI開発投資の説明責任を果たす材料が自動的に蓄積されます。

関連リンク