何が選ばれたのか
WIREDのランキングは、カメラを積まないスマートグラスの筆頭にEven Realities G2を置きました。G1の改良版で、レビュアーのChris Haslamは「現状で最も見た目の鋭いスマートグラス」と評しています。表示方式はEven HAO 2.0(Holistic Adaptive Optics)で、レンズ内の小さな長方形に緑色のデジタルテキストを映すだけ。輝度は1,200ニトあり、ほぼどんな照明下でも読めるとされます。仕様は重量36グラム、IP65、最大48時間駆動。フレームはオーバル型のG2 Aとレクタングル型のG2 Bの2種で、各グレー・ブラウン・くすんだグリーン。度付きレンズは−12.00〜+12.00ディオプターまで対応します。操作は新型のR1スマートリング、またはテンプルのタッチパネルです。
機能はAIアシスタントのEven AI、プレゼン用のTeleprompt、そして33言語の翻訳。Metaの6言語という数字と並べると、この製品が誰に向いているかが分かります。多言語の商談・現場対応をする業務ユーザーです。
なぜ重要か:「撮らない」がスペックになった
注目すべきは、WIREDがこの機種を「Metaのやっていることに違和感がある人向け」と位置づけた点です。スマートグラス市場はこれまで「何ができるか」で競ってきましたが、ここで初めて「何をしないか」が選定理由の一等地に来ました。カメラ非搭載は機能の引き算ではなく、会議室・病院・工場・顧客先といった撮影が事実上禁止される空間への入場券です。表示を通知・翻訳・原稿表示に絞った機種のほうが、全部入りの高価な端末より実務に刺さる——ランキング全体がその構造になっています。
Conversateが露呈させた設計上の穴
新機能のConversateは、会話中にAIが話題や事実を提示し、会話の文字起こしと要約まで作ります。Haslamは「わずかに役立つが非常に気が散る」と評価しました。画面のテキストを読みながら人と話すのは難しい、という素朴な指摘です。
より重い論点は倫理面です。記事は、Conversateが記録中であることを周囲に一切示さないと指摘しています。Metaのグラスが録画中に明るいLEDを光らせるのとは対照的です。つまり「カメラがないから安全」ではなく、記録の可視化という別の設計課題が残っている。相手の同意なき記録は、日本企業の商談・面談の場では十分にトラブルの火種になります。
ランキングの残りが示す市場の輪郭
次点にはRayNeo Air 3s Pro(299ドル、201インチ相当・1080p/120Hz/1200ニトだが視野46度、ソフトが不安定)、Viture Luma Pro(499ドル、上位のBeastより安い携帯モニタ用途)、Engo 3(400ドル、38.5グラムでOakley Meta Vanguardの半分、GarminやApple Watch連携のHUD)、Chamelo Music Shield(229ドル、透過率17〜64%の調光レンズ)、Rokid Max 2(429ドル、215インチ・視野50度)、Lucyd Reebok Octane(199ドル、8時間駆動のBluetoothサングラス)が並びます。
一方、非推奨はAsus AirVision M1(699ドル、72Hz止まりでピントの芯が狭い)、Halliday Glasses(リングが大きく遅延、頭痛)、Solos AirGo Vision(299ドル、写真と音質が酷評され「Ray-Ban Metaのほうが上手くやる」)。価格と完成度が噛み合わない機種が明確に落とされています。
2026年の地図
記事は、1960年代末の試作機からGoogle Glassまでの経緯も振り返ります。Google Glassは開発者向けキットとして出て10年以上が経ち、消費者向けに失敗した後、工場や倉庫へ軸足を移しました。Magic Leapの熱狂は萎み、Microsoft HoloLens 2やApple Vision Proは大きく重く高価なまま。成功しているのは、より焦点を絞った安価な機種だという整理です。今後はGoogleのAndroid XRが開発の土台を開き、XrealのProject Auraが2026年後半に、MetaのArtemis、新しいSnap Spectacles、Emteqの内向きセンサー機が控えます。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本企業にとっての実利は「カメラなし」という一点に集約されます。工場・医療・金融・自治体案件では撮影可否が入館条件そのもので、カメラ付き端末は検証の土俵に上がれません。G2のようにカメラ・マイクを持たず33言語翻訳とTelepromptを備えた機種は、情シスのセキュリティ審査を通せる可能性がある数少ない選択肢です。
具体的な打ち手は3つ。①海外取引のある製造業・商社は、通訳者を挟まない一次商談での翻訳表示を小規模PoCで測る。Metaの6言語では業務要件を満たしません。②SaaS・受託開発は、Android XRとProject Aura(2026年後半予定)が固まる前に、既存の現場業務アプリの「視線内に出す情報」を1〜2画面だけ切り出す設計を先に済ませておく。ハード選定より情報設計が律速です。③法務・人事は先に社内規程を用意すべきです。Conversateは記録中の表示がなく、MetaのLEDに相当する可視化がありません。商談・面談・1on1での自動文字起こしは、機器導入より先に同意取得ルールを決めないと事故になります。
EC・小売の接客用途は当面見送りが妥当です。Haslamが指摘した「テキストを読みながら人と話せない」という問題は、対面接客の品質を直接下げます。