何が合意されたのか

MPAはプレスリリースで、TikTokの親会社であるByteDangeとの間で覚書(MoU)を締結したと発表しました。内容は、Disney、Paramount、Warner Bros. Discoveryといった加盟スタジオの著作物が侵害されないようにするための共通フレームワークです。(※正確にはByteDance)

重要なのは適用範囲です。特定の生成モデル1本ではなく、ByteDanceのすべてのAIモデルが対象で、TikTok本体、TikTok USDS Joint Venture、動画編集アプリのCapCut、画像生成のDreaminaまで含まれます。MPAは「両組織の間の重要な協力を示すもの」と位置づけ、直近リリースされたSeedream 5.0 ProとSeedance 2.5について「IP保護の継続的な前進」を反映していると評価しました。MPAのCEO兼会長であるCharles Rivkin氏は、ByteDanceとの「建設的な関与」があり、同社が自社AIモデルに「意味のあるガードレール」を実装したと述べています。

なぜ半年で関係が変わったのか

出発点は対立でした。MPAは2月、ByteDanceのAIモデルが許諾なく著作物を使用しているとして停止要求書を送付。ByteDanceはほどなくして、知的財産と肖像(likeness)の無断利用に対する安全策を強化すると表明し、その後Seedance 2.0のグローバル展開を停止したと報じられています。つまり、法的な圧力 → プロダクト側の後退 → ガードレール実装 → 合意という順序をたどっています。

ここが今回の本質です。ハリウッドはいま、Midjourneyを著作権侵害で訴え、法廷で争っています。同じ論点に対して、一方は訴訟、一方は覚書という異なる決着が並走している。MPAは「訴えて潰す」ことだけを目的にしているのではなく、ガードレールを実装して交渉のテーブルに着く事業者とはフレームワークを結ぶ、という二正面戦略を明示したことになります。

点をつなぐ:交渉可能性という新しい評価軸

AI生成をめぐる企業間の争点は、これまで「学習データの適法性」という一点に集中しがちでした。今回の覚書が示すのは、争点が「学習時に何を使ったか」から「出力時にどう止められるか」へ移りつつあるという事実です。Seedance 2.0の展開停止と、後継であるSeedance 2.5・Seedream 5.0 Proへの評価が対になっている点がそれを象徴しています。実装されたガードレールが権利者から検証され、次のリリースで評価が上書きされる——このサイクル自体が、AI事業者にとっての新しい審査基準になりつつあります。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本企業にとっての含意は3つあります。

第一に、CapCutとDreaminaが覚書の対象に入った点。ECや小売、D2Cのマーケティング部門では、UGC風の広告クリエイティブ制作にCapCutを日常的に使っている現場が少なくありません。今後、権利者側の要請でフィルタや出力制限が段階的に強化される前提で運用設計すべきです。「昨日まで通った生成が今日は止まる」ことは、キャンペーン進行のリスクになります。代替ツールと内製素材の比率を今のうちに上げておくのが実務的な打ち手です。

第二に、生成AI機能を載せるSaaS・受託開発の事業者。ByteDanceは訴えられてから対応したのではなく、ガードレールを実装して交渉のテーブルに着いたことで覚書に到達しました。権利者団体との対話可能性そのものがプロダクト評価に組み込まれ始めています。自社プロダクトに「何を出力させないか」の仕様と、その説明資料を用意しておくことが、エンタープライズ商談での差になります。

第三に、コンテンツを持つ側——出版、アニメ、ゲーム、放送。MPAはMidjourney訴訟と今回の覚書を並走させています。日本の権利者団体・企業も、訴訟一択ではなく「条件付きで組む」交渉カードを設計する段階に来ています。役員が今決めるべきは、自社IPについて『絶対に許諾しない用途』と『条件次第で解放する用途』の線引きです。

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