何が起きたか
AtlassianのTeamwork Lab(行動科学者や心理学者のチーム)を率いるMolly Sands博士が、VB Transform 2026でVentureBeatのSam Witteveen氏との対談に登壇しました。Sands氏の主張はシンプルです。「多くの企業はAI導入を逆向きに進めている」——つまり、チームの働き方ではなく個人のAI活用ばかりを最適化している、というものです。
根拠は同社の年次調査「State of Teams Report」。世界1.2万人のナレッジワーカーへの調査と、Fortune 1000企業の役員約200人への取材から成ります。結果は「活動」と「価値」の乖離でした。経営幹部の89%が「社内の個人は速くなっている」と答えた一方、明確なROIの具体例を挙げられたのはわずか6%。AI利用を実際の価値に変換できたチームは全体の約14%にとどまりました。
なぜ重要か
14%という数字は「全社一律に成果が出ない」のではなく、「一部の高成果チームと、まったくリターンのないチームが同居する」状態を意味します。差を生むのは個人のスキルではなく、チームの設計です。
Sands氏は勝っているチームの共通点を3つ挙げます。コンテキスト・ワークフロー・カルチャーです。
3つの論点
第一にコンテキスト。上位チームは目標・意思決定・組織知を個人の記憶ではなく共有デジタル記録に残し、Atlassianが「コンテキストグラフ」と呼ぶ構造を作ります。JiraやConfluenceを横断し、作業項目・目標・担当者を結び、AIに組織文脈を渡す仕組みです。
第二にワークフロー。勝つチームは孤立したタスクを速くするのではなく、エンドツーエンドの業務プロセス全体を再設計します。個々人だけ速くなると「バラバラの方向を向いた人がすぐに衝突し始める」とSands氏は言います。
第三にカルチャー。最速のチームは、失敗を織り込みつつ学習と実験を明言して奨励するリーダーの下にありました。あえて制約を課す——全タスクを1ストーリーポイントに分割する、1週間は手でコードを書かないと決める——といった手法も有効でした。「長く続けるものではないが、極めて速く学べる方法だ」。
もう一つの障害は、社員が各自バラバラにAIを覚えることです。それぞれ独自のプロンプト・エージェント・前提を持ち、暗黙知が組織成果に翻訳されません。Atlassianはプロジェクト開始時に「AIワーキングアグリーメント」を試しました。何にAIを使い、何に使わないか、どのエージェントを共有するか、共通スキルは何か——をチームで先に決める取り組みです。導入したチームはAIをより多く使い、速く動き、意思決定と成果物の質が上がりました。
Sands氏の結論は示唆的です。AIは新しいマネジメント問題を生んでいるのではなく、古い問題を露呈させている。隠れた前提や異なるメンタルモデルの影響が、以前より大きくなっているのです。
(本記事はAtlassian提供のスポンサード記事に基づきます)
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本企業でも「ChatGPTを全社解禁した」で止まっているケースは多く、Sands氏の指摘はそのまま刺さります。EC・SaaS事業なら、個人の生産性ツールとしてAIを配るだけでは89%側(速いがROI不明)に沈みます。役員が今問うべきは「誰が速いか」ではなく「どのチームの業務フローが再設計されたか」です。とくに受託開発は要注意で、個々のエンジニアが独自プロンプトで加速しても、設計思想がバラバラなら統合時に衝突コストが増え、品質がむしろ下がります。打ち手は3つ。①JiraやConfluence等に目標・意思決定・組織知を残す運用を義務化し、AIが読める「文脈の資産」を作る。②プロジェクト冒頭で「AIを使う工程/使わない工程/共有エージェント」を明文化する(AIワーキングアグリーメント)。③失敗前提の実験をKPIから切り離して奨励する。ROI測定の単位を個人から「チームのアウトカム」に変えることが、経営者の最初の一手です。