顔認識の「93%一致」が引き起こした逮捕
2023年11月2日、フロリダ州ジャクソンビルビーチのマクドナルドで、12歳未満の子どもを誘い出そうとした事件が発生した。捜査を担当したジャクソンビルビーチ警察のスコット・オコネル伍長は、顔分析比較検索システム「FACES」を使って容疑者を特定しようとし、ロバート・ディロン氏が93%一致するとの結果を得た。この結果をもとに逮捕状が取得され、2024年8月、ディロン氏は自宅で妻の目の前で逮捕された。
無実を示す証拠は最初から存在していた
ディロン氏が居住するフォートマイヤーズは、ジャクソンビルビーチから300マイル以上離れている。車両ナンバープレート読み取りシステムによる検索では、事件が起きた2023年11月1日〜3日の間に、ディロン氏の車がデュバル郡内に存在した記録はまったく確認されなかった。また逮捕前にディロン氏本人に電話で事情を聞いた際、同氏は関与を否定していた。
これらの証拠は、オコネル伍長が逮捕状申請に際して提出した宣誓供述書から意図的に除外されていたとされる。訴状は「オコネル伍長は単に捜査を怠ったのではなく、容易に入手できた捜査手段を積極的に活用しないことを選んだ」と指摘している。
顔認識技術そのものの問題
今回の一致判定は、監視カメラの映像をモニターに映し、その画面をさらにカメラで撮影した低品質な画像をもとに行われた。デジタル抽出による鮮明な画像ではなく、二重に劣化した映像が使われたことになる。
FACESデータベースは3,850万件の画像を収録し、2022年時点で196の法執行機関が利用できる状態にあった。訴状は「『93%一致』という数字を提示された捜査官には、そのスコアの根拠を評価する手段も、確信度が妥当かを判断する枠組みも、確率論的に何を意味するかを理解する参照点も存在しない」と記している。
ディロン氏自身も「黒い波打つ髪と言われたが、私の髪は波打っていない」と述べており、「93%正確と言われても、私にとっては100%不正確だ」と訴えている。
なお、マクドナルドの店長には、ディロン氏を含む6人の写真を並べたフォトアレイが提示されたが、実際の被害者には見せられなかった。
担当警官の経歴と訴訟の経緯
オコネル伍長には問題のある職歴がある。以前所属していたセントジョンズ郡保安官事務所では機関を「爆破する」と脅したとして解雇され、その後復職したものの、家庭内暴力で逮捕されて辞職している。
ディロン氏は一夜を拘置所で過ごし、トラックの車検証を担保に保釈金を工面して釈放された。商業カニ漁師として生計を立てる同氏は、稼ぎ時の漁期の約1か月間、精神的な負担と公の場での対立への恐怖から仕事に集中できなかった。起訴から2か月以上後に容疑は取り下げられた。
現在ディロン氏はACLUおよびホグエット・ニューマン・レガル&ケニー法律事務所の代理でジャクソンビルビーチ市などを提訴している。米国内でこうした顔認識の誤一致による冤罪逮捕は、現在までに少なくとも15件が確認されている。
出典:Ars Technica