何が問題なのか——「生成」と「運用化」は別物

SAP Business Technology PlatformのCPO、マイケル・アメリング氏は、AIでコードを書くこと自体は速いが、それを大企業の中で信頼性高く動かすこと——稼働中のシステムと統合し、コンプライアンスに沿ってガバナンスし、10年20年にわたり保守すること——には多くの組織が過小評価している基礎工事が必要だと述べています。

数字がこの断層を物語ります。詳細なAI戦略を持つ組織は81%にのぼるのに、実際にAIが業務を動かす「実行」段階まで到達したのは12〜16%。壁にぶつかる理由は、生成されたコードの品質であることはほとんどありません。「コードを生成することと、それを運用化することは同じ問題ではない」——アメリング氏の言葉です。

なぜ重要か——AIは成熟度を増幅するが、代替はしない

AIは組織が既に持つデータ・プロセスの成熟度を増幅しますが、その不在を埋めることはできません。チームは魅力的なものを作り上げた後で、それを動かすためのデータへのアクセス権・統合・権限が自分たちにないと気づく、という順序をたどりがちです。

負荷の性質も変わります。ロジックが一度きりの出力を出すのではなく、稼働中のデータに対して継続的に走るようになると、レイテンシ・コスト・システム負荷がすべて増大します。多国籍企業の取引システムを横断して動く自律エージェントは、開発者向けコパイロットとは要求される性能水準がそもそも違うのです。

具体論——「実行の前」に必要な層

現実の企業環境は、クラウド、レガシーのオンプレミス、分断されたデータストア、そして相互接続を想定して作られていない何十もの業務アプリの寄せ集めです。AI生成ロジックをここに接続するには、エージェントが動き出す「前に」データアクセス・プロセス文脈・ガバナンスを束ねる層が要ります。

アメリング氏は、インフラの近代化を先送りすべきではないと言います。「近代化するかどうかが問いではない。当然すべきだ。だがAIを乗せることで得られる価値ははるかに高い」。連合的なデータアクセスと調和されたプロセス層は、分断された環境をアップグレードする代替物ではなく、そのアップグレードを価値あるものにする理由だという主張です。SAPはJoule Studio、Integration Suite、Business Data Cloud、そしてSAP AI Agent Hubというアーキテクチャ層を組み合わせ、業務文脈を供給するアプローチを取っています。

エージェントは「従業員」として扱う

ワークフローを起動し、レコードを更新し、稼働システムと対話するエージェントには、人間の従業員と同じ説明責任の枠組み——アイデンティティ、定義された権限、監査可能な挙動——が必要です。ガバナンスには2つのモデルがあります。ユーザーの代理として動き、そのユーザーの権限とスコープを継承する「プリンシパル伝播」型と、エージェント自身のアイデンティティとロール定義の権限で動く「システム起動」型(自動化されたHRの役職に近い)です。どちらも、どのエージェントが存在し、どのAPIにアクセスでき、何を許可されているかを運用者が見渡せるエージェントハブを前提とします。

監視面ではSAPはOpenTelemetryを採用し、ツールやサードパーティ製エージェントのエンドツーエンドな可観測性を確保します。標準的な技術評価が出力の一貫性を測るのに対し、ビジネス評価は「そのエージェントが改善のために配置された指標を実際に動かしているか」を問います。モデルがテストデータと本番データで異なる出力を出すため、従来のdev/test/production型のサイクルは崩れ、本番環境でのテストやA/B/Cテストが求められます。

出典: VentureBeat(SAPによるスポンサード記事)

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本企業、とりわけERPやSaaSの上に業務を載せているEC・製造・金融・物流にとって、この話は「PoCで盛り上がったのに本番に乗らない」現象の正体を言い当てています。81%が戦略を持ち12〜16%しか実行に届かない断層の日本版は、多くが基幹システムとの統合・権限・データアクセスで止まっているはずです。

受託開発・SIerにとっては商機と脅威が同居します。コード生成が速くなるほど、差別化は「顧客の分断されたレガシーとクラウドを束ね、ガバナンスと監査を効かせる層」を作れるかに移る。ここは単価が落ちにくい領域です。

事業責任者が今動くべきは3点。第一に、AI導入の前提としてデータアクセスと権限設計を棚卸しし、近代化を先送りしない。第二に、エージェントを「従業員」とみなしID・権限・監査ログを人事並みに設計する。第三に、評価指標を精度だけでなく「狙ったKPIを動かしたか」で測る体制に切り替える。自社の業務知見(製造の工程知、金融のリスクロジック)こそが最後の競争優位であり、ツールではありません。

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