何が起きたか

General Motors(GM)の自動運転部門は、ソフトウェアエンジニアの開発プロセスをAIエージェント中心に組み替えました。同部門VPのRashed Haq氏がVB Transform 2026(開催地はカリフォルニア州メンローパークのHotel Nia)で語ったところによると、成果はエンジニア組織全体でマージ済みPRが約3倍、リリースの高速化、そして開発の後工程に漏れる不具合(テストエスケープ/バグエスケープ)の減少でした。GM自身も当初はもっと控えめな改善を見込んでおり、「唯一の驚きは、これほど多くのことができたことだ」とHaq氏は述べています。

「コードを書く時間は15%」という出発点

改革の前提は、エンジニアが実際にコードを書く時間は全体の15%に過ぎない、という認識です。残る85%は車両データの分析、問題の切り分け(トリアージ)、実験の実行、修正候補のテストといった作業で占められます。GMはこの85%側をエージェントで加速させました。

この「コーディングは業務の一部に過ぎない」という指摘は目新しいものではありません。2019年のMicrosoftによる5,971人のプロ開発者調査では、コードを書く時間は調子の良い日でも平均96分、悪い日で66分——8時間労働のおよそ20%と14%でした。2018年のStripe調査では、開発者はデバッグやリファクタリングなどの保守作業に週17時間超を費やしていました。GMの改革は、この「コード以外の大半」に手を入れた点に本質があります。

「チャットボットを足す」のではなく「ループ単位で自動化する」

Haq氏は、単にコーディング用チャットボットを与えるだけでは「プロセスに多くの非効率が残ったまま」だと指摘します。GMがとったのは、業務を複数の「ループ」——シミュレーション上での開発・テスト、公道での車両テスト、顧客に届いた後の車両監視——に分け、各ループで最も長いボトルネックを見つけて自動化し、それを繰り返すという方法です。「ループ単位でやることが本当に重要だった」とHaq氏は語ります。

技術的な土台として、GMはカスタマイズしたModel Context Protocol(MCP)サーバー経由で、エージェントを社内ツールとペタバイト級の社内データに接続しました。さらに、特定タスクの手順を記した指示文書を「スキル」としてバージョン管理し、エージェントに参照させています。

代表的な応用が、公道走行車両のテレメトリ(遠隔計測データ)活用です。エージェントがデータを分析し、初期トリアージを行ってエンジニア向けの課題(Issue)を起票します。この際、GMの車両テレメトリ可視化システム「WebViz」の基盤ツールをMCP接続経由で呼び出せるようにしています。機械学習の実験でも、エンジニアが実験と条件を定義すれば、バックグラウンドのエージェントが並列でテストを実行し結果を収集します。

人間が責任を持つ設計

GMは自動化と同時に統制も設計しています。エージェントの出力は人間が読める形式でなければならず(「出力は人間が読めるものでなければならない」)、エンジニアが所見を理解できるようにしています。エージェントの権限は、それを使うエンジニア本人の権限に基づいて付与され、出力の責任はあくまでエンジニアが負います。また、ワークフローを加速する前に構造化・非構造化のテストと性能指標を整備し、エンジニアがその指標を見て「このテストは今も本来の目的を捉えているか」を判断してから本番へ進めます。

さらにGMは、社内エージェント基盤を「プロダクト」として扱い、4名の専任エンジニアを現場チームに配置。ワークフローの発見、実践の横展開、ツール導入を直接支援しました。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

注目すべきは「AI補助ツールを導入したら生産性が上がった」ではなく、ワークフロー全体を再設計した点です。日本の受託開発・SIerやSaaS企業の多くは、コーディング支援AIを既存プロセスに“足す”段階で止まっており、GMが言う「非効率が残ったまま」の状態にあります。

事業責任者がまず自問すべきは「自社エンジニアの15%(=コーディング)を速くしているだけではないか」です。効くのは残り85%——調査・トリアージ・実験・テストです。打ち手は具体的で、(1)業務を工程ではなく“ループ”に分解し最長ボトルネックから自動化する、(2)社内ツールとデータをMCP等でエージェントに接続する、(3)手順を「スキル」文書として資産化する、(4)権限はエンジニアの権限に紐づけ責任の所在を人間に残す、の4点です。

特に受託開発企業にとっては、PR約3倍・不具合の後工程漏れ減という指標は、そのまま納期短縮と手戻りコスト削減=粗利改善に直結します。GMが基盤を「プロダクト」とみなし専任4名を張った点も重要で、現場任せの“各自でAI活用”では横展開しません。導入判断と同時に、社内展開を担う専任チームの人員配置まで経営が決めるべきです。

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